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名古屋高等裁判所 昭和53年(行コ)34号 判決

愛知県豊橋市岩屋町字岩屋下一〇七番地

控訴人

有限会社 光楽食堂

右代表者取締役

佐藤隆之

右訴訟代理人弁護士

大矢和徳

愛知県豊橋市吉田町一六番地

豊橋税務署長

被控訴人

鈴木栄

右指定代理人

山野井勇作

横井芳夫

川村俊一

大西昇一郎

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は「原判決を次のとおり変更する。被控訴人は控訴人に対し昭和四二年一月三〇日付をもってなした昭和三八年五月一日から昭和三九年四月三〇日までの事業年度分法人税の所得金額を一七三万五二九三円とした更正処分のうち六〇万三〇〇八円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定処分を取消す。被控訴人が控訴人に対し昭和四二年一月三〇日付をもってなした昭和三九年五月一日から昭和四〇年四月三〇日までの事業年度分法人税の所得金額を一四一万三八五九円とした更正処分のうち六五万〇八八三円を超える部分並びに過少申告加算税及び重加算税各賦課決定処分を取消す。被控訴人が控訴人に対し昭和四二年二月二日付をもってなした昭和四〇年五月一日から昭和四一年四月三〇日までの事業年度分法人税の所得金額を八〇万四三四七円とした更正処分のうち七〇万二六〇〇円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定処分を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上、法律上の主張並びに証拠関係は次のとおり付加訂正するほか原判決事実摘示と同一であるからここにこれを引用する。

(一)  原判決九枚目裏四行目に「処方」とあるのを「処分」と、一〇枚目裏三行目中「そのため、」とあるのを「そして」と、同四行目中「となった。」とあるのを「である。」と、一五枚目裏九行目に「形式的証拠能力」とあるのを「形式的証拠力」と、それぞれ訂正する。

(二)  控訴人の主張

1  被控訴人が、一般人の関与せず被控訴人だけで算定した非公開の差益率を適用して控訴人の本件各事業年度の所得を推計して課税したのは憲法一四条、三〇条に違反する。

2  推計課税が許されるのは、納税義務者が信頼できる帳簿その他の資料を備えず、かつ税務当局の調査に対して資料の提供を拒むなど非協力的であるため、税務当局において納税義務者の所得の実額を調査し計算することができない場合に限ると解すべきである。そして、本件においては、原判決事実摘示中の被告の主張「本件処分の適法性五」において被控訴人自ら主張するとおり、控訴人の所得について実額計算が可能であったのであるから、被控訴人のなした本件推計課税は違法である。

3  仮に本件処分時において、控訴人の日計表等の記載から控訴人の申立のうち仕入の事実を確認できなかったとしても、被控訴人において控訴人に対し他の資料の提供、特に控訴人の口頭の説明を求めれば実額計算が可能であった。にもかかわらず被控訴人は控訴人が当時豊橋民主商工会の会員であることのゆえをもって民商弾圧のために当初から推計による不当な課税をすることを企図し、控訴人に対し何らの資料の提供を求めなかったばかりか、控訴人から説明したい旨申出たのに対しその機会を与えなかったのであるから、本件推計課税は違法である。

4  仮に本件において推計課税が許されるとしても、推計にあたっては推計に必要な一切の事情を考慮したうえ最も実額に近い金額が推計される方法をとるべきである。実務上推計の方法として、資産増減法、消費高法、比率法、単位当り額法等が採用されているが、被控訴人は本件推計にあたり右の方法のうちいずれが最も合理的であるかについて全く吟味することなく漫然比率法を採用したのは違法である。

5  被控訴人は、名古屋市東部から静岡県弁天島に至るまでの国道一号線沿いに控訴人と同業者であるドライブインが七〇店舗あると主張しているのであるから、右七〇店舗の平均差益率を適用するのが合理的である。しかるに被控訴人は右のうち控訴人の食堂とは全く異質であるか、もしくは地域的類似性を有しない八店舗を悠意的に選択し、その平均差益率を算定し適用しているのであるから、本件推計課税は違法である。

(三)  被控訴人の主張

控訴人の右主張をすべて争う。

(四)  証拠関係

控訴人は甲第六号証を提出し、当審における控訴会社代表者本人尋問の結果を援用し、被控訴人は右甲号証の成立は認めると述べた。

理由

一  当裁判所は当審における証拠調の結果を参酌しても控訴人の本訴請求は原判決が認容した限度において理由があり、その余は失当として棄却すべきものと判断するが、その理由は次のとおり付加訂正するほか原判決の理由と同一であるからここにこれを引用する。

(一)  原判決一七枚目表四行目中「収支金額」とあるのを「帳簿上の残高」と訂正する。

(二)  同一九枚目表四行目に「税務所長」とあるのを「税務署長」と訂正する。

(三)  同裏五、六行目及び七行目に各「形式的証拠能力」とあるのを「形式的証拠力」と各訂正する。

(四)  同二〇枚目表八行目中「右比準者」以下同一〇行目中「算定すると、」までを「右比準者の昭和三八年度ないし昭和四〇年度の売上金額及び売上原価は別表三ないし五記載のとおりであり、その差益率(売上金額から売上原価を控除した金額(売上差益)の売上金額に対する割合)の平均は、」と訂正する。

(五)  控訴人の当審における主張について判断する。

1  1、4及び5の各主張について

被控訴人が控訴人の本件仕入実額を算定できなかったために、法人税法一三一条に基づき、原判決添付別表三ないし五記載のAないしHの八店舗(昭和三八年度においてはAないしEの五店舗)を比準者として選定し、その差益率により控訴人の総利益(荒利益)を算定したのは、原判決の説示と同一の理由により適正かつ合理的であると認められる。したがって、本件課税処分が憲法に違反する旨の控訴人の主張は理由がないし、控訴人の4及び5の主張もこれを採用することができない。

2  2の主張について

被控訴人が控訴人の本件実額を計算できなかったと認めるべきことは原判決の判断のとおりであるから、控訴人の右主張はこれを採用することができない。

3  3の主張について

控訴人主張のような事実を認めるに足りる何の証拠もないから、右の主張は採用の限りでない。

二  よって判決は相当であるから本件控訴を棄却することとし、民訴法八九条、九五条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 秦不二雄 裁判官 三浦伊佐雄 裁判官 高橋爽一郎)

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